2018.09.26

『府中市立図書館 上下分室』 人に喜んでもらいたい、本で、お話しで

本を楽しみにする人へ。お話しと笑顔も一緒に届ける。

府中市立図書館 上下分室では、車での移動図書館の他に、地域の家に図書を宅配している。図書館の職員として働く、福本知泰さんに、自身の経験と今の取り組みについて話を聞いた。

図書館で働くきっかけ

「鬱になっとんたんよ」(笑)

 

鬱になって学んだことは多いですね。自慢じゃないけど鬱になったから今があるというか。一番やる気バンバンだった45才の時だったかな。人間不信になって3年間位は、家の外に出なかったんですよ。日々寝られなくなって、昼夜逆転。昼間に草刈りとかをしていたんですが、世間体を気にしてやってた部分が大きいです。

「昼は何もせんと、夜になると動くなぁ」と人から良く言われましたね。怠け者という周りの評価を受けて。そんな時期に、何かしなきゃだめだ、昼間に動けば良いんだと、一生懸命になって鳥の巣箱を作ろうと思い立って、40個位作ったんです。作った巣箱を家の周りに掛けていったんです。すると、ヤマガラ(山鳥)がいっぱい入ってきて、餌を食べにくるわけですよ。

 

鬱になると、自分が世の中の足手まといみたいな気持ちになるんですよね。それが、ヤマガラに喜んでもらったって思えて。たかが、ヤマガラだけど。

 

「役に立った」。

 

そう思えたんです。こんな自分でも、人に喜んでもらえたというのが嬉しくて。

その他にも、墓参り用の手持ち箱を作ったりして近所に配ったりしだして。そこから木工を始めたんです。そして、徐々に外に出て人と接するようになっていきました。

それから、仲間に声を掛けていき「ウッディーハートクラブ」という団体をつくったんです。正月だったと思うんですが、子供と一緒に見た映画、トイストーリーに出てくる 「ウッディー」 をイメージして「やさしい人集まれ」ということで、ウッディーハートクラブ。

もともと木工をやろうという訳ではなかったんですが、今では主に、府中地区や福山地区のイベントで、ものづくりを子どもに体験してもらおうと活動しています。と言っても、仲間で何かするとなったら「ウッディー」の名前でイベントや祭りに参加していますね。(笑)

 

色んなボランティアをしていくことで、元気になっていってね。

製造業のアルバイトに行ってみたり、仕事で森林組合にいたことがあって、知人から木を切るアルバイトを頼まれたり。「家の裏山の木を切ってくれ」と依頼があれば木を切りに行ってみたり。他にも、牛の餌やりもしてましたよ。図書館ボランティア「トンファーの会」として、上下分室で読み語りをはじめたりもしていましたね。

その後、町内会長の役を頼まれてしまって。5年位やったんですよ。民生委員もやりました。町内会の役や色んなボランティアを一生懸命に努めていくうちに、どんどん元気になっていきました。

 

そうこうしていたら、仲間から上下図書館で、移動図書館の運転手の募集をしているという話を聞いて。

 

「やってみょう!思うたんじゃろうなぁ」。

 

それがきっかけです。

 

色々なことを経験して学んで、それを通して接した来た人たちを知っているということが、図書館の仕事やボランティアで非常に役に立っていると思います。

図書の宅配

以前は地域にステーションを設け、本を車に積んで移動図書館をしていたんですが、特定の場所に歩いて来ることができない方もいらっしゃいました。どうせ時間も人も燃料も使っているんなら、ただの2、3冊の本でも宅配すればと思って、自宅へ本を届けるという企画を考えたんです。府中市立図書館の本館と、市の生涯学習課の承諾をいただいて「図書の宅配」を始めたんです。

地方の図書館は、特に分室というのは、どうしても縮小していくことが多いと思うんです。その中で、なんとか地元の図書館を残していきたいという想いがあります。利用者さんは、本館に比べれば少ないですが、日々楽しみで来てくれる人たちの役に立てれば良いなって。

 

そう想うのは、今まで図書館へ頻繁に来てくれていた方が急に来られなくなった時、どうしたのかなと家に行ってみたら「足が痛くて行けない」って言われたり、本を宅配している中で、若い頃は「生きるのに精一杯で、本を読む余裕が無かった」と。今になって「本を読むのが楽しくてしょうがない」と教えてくれる方がいます。

数字で言えば、宅配している本は少ないです。ですが、そんな心待ちにしてくださっている方々に本を届けているんです。

こちらが役に立てばと宅配をしているはずが、逆に「風邪をひきなさんな」と、こっちの心配をしてくださるんですよね。宅配時の何気ない会話も待ってくれている。そう思うと、エネルギーになるんです。

子どもに伝えたいこと

地域の学校や施設で「絵本の読み聞かせ」も行っています。それは、子どもたちには、誠実で「思いやり」のある子になってもらいたい気持ちでやっています。自分の過去の経験で嫌と思っていたことを子供にはしないように。そして、公平に子どもたちに接するよう心掛けています。

元気いっぱいの子どもたちに対して、時にはレッドカードを出すこともあるけれど、良いことをした時にはいっぱい褒めるんです。そして、同じ目線で接していると、その子も誠実に接してくれるんですよ。

 

田舎の子たちだからかもしれないけれど、心温まるエピソードがいっぱいあるんですよ。例えば、自分が浮かない表情で学校に行った時、それに気づいたある子が

 

「でんちゃん、頑張ってー!」

 

そう声を張って言ってくれたんです。宅配と同じで、逆に元気をもらって。

「おはなし宅配便」

図書館業務として「おはなし宅急便」という行事も行っています。移動図書館車に本を積み込んで、小学校、保育所、地域サロンなどへ行っています。また「いとつむぎの会」という会では、訪問演芸ボランティアとして福祉施設訪問も行っています。そこでは、本の朗読以外にも、歌を一緒に歌ったりするんです。歌でも歌って、人に喜んでもらえるなら歌おうと思ってますよ。

そんな行事や活動を通して、人に喜んでもらえたら「役に立てたな」と実感できるんです。

 

「生きとってよかったなぁと」。

 

とにかく喜んでもらえたら良いなって。人の笑顔見るのが好きで、その笑顔を見て自分も元気になるみたいなとこがあるな。

ボランティアと仕事を通じて

図書館に務めさせてもらえているので、ボランティアもできると思っています。地域の人をいっぱい知っていて、どこにでも飛び込んで行ける図書館職員として、人に喜んでもらいたいです。

色んなボランティアや仕事を通して、接した人たちや子どもたちから色んなヒントを私自身がもらっています。

子どもからお年寄りの方にまで、お話しを宅配する福本さん。人に喜んでもらいたい想いで、地域の図書館の職員を担っている。府中市立図書館 上下分室に行けば、温かい笑顔で迎えてくれる。

  • メールまたは電話でお問い合わせください。

    『府中市立図書館 上下分室』
    住所:〒729-3431 広島県府中市上下町上下861-3
    開館時間:10:00~18:30
    定休日:火曜日

    HP:https://www-lib.city.fuchu.hiroshima.jp/toshow/index.html