備後府中人 BINGO FUCHU PEOPLE

2019.03.29

『自然の森M.G.ユースホステル』 人儲けのホテル

残したいものは、人が集まる場所

上下町山間の四畳半の家から始まった「自然の森M.G.ユースホステル」。全国から人々が集う場所として今年で60周年を迎える。そのユースホステルの運営、また上下駅で「まんまる屋」を営業する和知啓子さん。彼女にユースの歴史や人が集まる場所への想いを聞いた。

想いを継いでM.G.ユースホステルの運営

自然の森M.G.ユースホステルは、森岡まさ子さんが、夫の敏之さんと共に昭和34年に開設された広島県で最初のユースホステル。「平和の大切さを若者に伝えたい」という想いから、若者の交流の場の提供と平和の尊さを伝えてきた場所です。手作りで少しずつ建物を整備しながら、多くの若者が訪れる場所になっていきました。全国で5本の指に入るほど有名なユースで、いつも人が泊まりに来ているようなホテルでしたよ。

 

「ママも色々なことがあってね。」

 

秋田から泊まりに来ていたお客さんで、自身でもユースホステルをしたいという夢がある人がいて。35年位前に彼はヘルパーとしてママの手伝いをするようになって。数年後、森岡家の養子にならないかということになり、ユースの後継者になられたんです。

 

ママからすると、もう安泰と思っていた時期。だけれど彼が病気をされて、秋田に帰ることになってしまって。それから地元の企業がユースを買い取って運営をしていく形になりました。それがきっかけで、ママは失意のどん底に落ちたような状態になってね。私はそんなママが心配で、ちょこちょこ顔を出していたんです。

 

自分の思い出の場所が他の人が入ることによって変わるというか。旦那さんと一緒に形にしていったもの、例えば手作りのペンキを塗ったテーブルが、外に出され新しく豪華なテーブルになったりね。別に悪いことじゃないんだけれど、彼女はどこか寂しさを感じていたわけよ。

そんな時に

 

「もしこの世に神様が存在するんだったら、私がユースをやりたい!」

 

って私が口に出してしまったんです。あの時は、落ち込んでいるママをどう収めるかって考えて口に出したんだと思います。(汗)

 

それから10年後、上下町が府中市に合併する頃に、買い取った会社がユースを市へ寄付するということになり休館に。そんな時に、ママが私の言葉を思い出して声がかかったんです。

 

今しか選択できない選択、やるかやらないかの選択。

 

「やりますって。」

 

それが45歳の時。それで仕事も辞めて、全くやったことのないホテルの運営を始めることになりました。

 

 

大変さも楽しむ

オープン前は、半分は上手くいかなくてもいいかなとか、できない言い訳を探すわけよ。例えば、市とユースホステルの土地の契約なんて「私にはできない」って感じで。

でも、隣街の知り合いが「書類は私が作ってやる」って言ってくれたり、提供する料理もできないって思っていたら、レクリエーションクラブで料理をしていた方がたまたま職を探していて。「一緒にやらない?」と声をかけたら、それもクリアできてしまって。

できないって言えなくなりましたね。それから必死でやってからね。

 

再開日から人がわんさかと来て。初めからドタバタしてたのを覚えてます。それから、ママを訪ねていろんな人が急に来られることも多々あって。そんな対応も、レクリエーションを経験をしていたので「何とかなる」という感覚で何とかやってこれました。

 

「楽なことはすぐ過ぎ去る。それに心に残らないよね。」

 

選んだからには大変さも楽しまなきゃ駄目。後になって「あの時は大変だったね」と、一緒に振り返る事のできる仲間や友達が生涯の友になるよね。もちろん、やってる時は必死。でも「その経験があったから今がある」と語り合える日がくるって思っていますね。

 

いつも思うのは、何かが起こったときに柔軟に対応できる心の余裕が必要ってことです。あまり頑張り過ぎると上手くいかなくなった時に、自分が傷ついたりとか落ち込んだりとかする。でも案外そういう時って、次のチャンスがどっかに転がっているのに気づけないんよね。

 

昔は休みなくやってたけど、ある時、自分の休みは自分で作ればいいんだって気づいて。「今日はお休みしますカード」を作ってちょっと買い物に出たり、喫茶店でコーヒーを2時間位ゆっくり楽しめることができるようになりました。それで、気持ちを切り替えて、また「よし頑張ろう!」となれる。それができるようになって楽になったかな。大したことじゃないんだけど、いつも仕事モードに入っているのはしんどいからね。

 

 

人儲け

ママの言葉や、ユースで学んだことは本当に多くて面白い経験。

 

「会う人会う人は福の神」という森岡ママの言葉があるんですが「困った時にお願いをするとお客が入る」とママが言ってたのを思い出して、言葉を書いた額に手を合わせてお願いするんです。面白いのが、本当に予約の電話がかかってくるんです。(笑)

他にも、お客さんから「何か困ってるんですか?」って声をかけてくれることも多くて、そんなに大きい問題じゃないけど私が困ってることが、すぐに解決したりね。

 

今月はよく売り上げが出たなと思ってたら、何か故障して修理代で出ていったり、逆にお金どうしようと思っていたら、それに見合うお金が入ってきたりとか。「金は天下の回り物」って本当だなぁと思ったり。

 

「何かお金じゃ無いねと思って。人儲けだよね。」

 

 

人の集まる場所づくり

「まんまる屋」という上下駅舎でお店もしているんですが、共通点は「人が集まる場所は必要」ってこと。そこに人が集って話していくことで何かが変わっていくと思っています。

それに、とにかく残すために今踏ん張っているわけ。私たちが辞めると確実にユースもなくなってしまうし、駅も寂しくなってしまう。そう考えると、やっぱりもうちょっと頑張らないといけないねと仲間と話をしていますね。

 

道をつけてしまえば、後は歩きやすいと思うんですよね。残したい、続けたい。そのために必要なお金は稼ぐという感じ。そして私がママの意思を引き継いだように、ユースやまんまる屋も楽しくやってみたいという人に引き継げたらいいなと思っています。私も基本的には楽しいことをやってるし、それがきちんと喜びとして自分に返ってくるからね。

  • メールまたは電話でお問い合わせください。

    『自然の森M.G.ユースホステル』
    住所:〒729-3431 広島県府中市上下町矢野470-1
    チェックイン:15:30~
    チェックアウト:10:00
    駐車場:20台 (無料)
    温泉:単純放射能冷鉱泉