2019.01.22

『なまこ壁』 上下のシンボルの作業過程を学ぶ

早速、自分の家の壁を修理します。(参加者)

府中市上下町の住民有志で組織されている「上下まちづくり協議会」。協議会では、上下町のまちなみを、国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定されることを目指す活動が行われている。 その活動の一環で、上下のまちなみのシンボル「なまこ壁」の制作過程を学ぶワークショップが開催された。住民が、自分たちのまちなみの魅力の関心を高めてもらいたいと、なまこ壁のある家に住む住民などが参加した。

オープニング

上下まちづくり協議会 野田会長挨拶

魅力ある上下のまちづくり事業の一環として、株式会社高木 冨士川計画事務所の高木所長をお迎えし、技術研修をしていただけることを嬉しく思います。

これからの上下のまちづくりの中でも、白壁のまちなみの修景や保存のために、昔の伝統を生かした補修技術が必要だと考えています。皆さんも今日習っていただいた技術を活かしていただければと思います。

 

高木先生

九州の熊本を拠点に、建築やまちづくりに関することを40年以上携わってきました。左官技術は、機会を捉えては、学生さんたちを含めた勉強会を行ってきたので、その経験を今日活かせたらなと思います。

 

実際の手の動かし方や技術などは、熊本から左官の山川さんをお招きし実演を。また、上下の左官さんの藤原さんにも教えていただきます。地元の技術もあるということですので披露していただけたらと思います。

 

山川講師(左官)

こんなにも上下町に、なまこ壁が伝統的に残っていることに驚きました。熊本には、上下町と同じような、なまこ壁はなかなかないのでどういう具合にやるか考えてるところです。

今日は漆喰の素晴らしさや、ただ伝統的な漆喰の壁だから良いではなくて、なぜ、なまこ壁なのかということを皆さんにお伝えできればいいなと思っています。

 

20年前に100年持つ家の壁を検討し、土佐漆喰に出会い、そこから勉強してきました。環境、人への優しさ、素材といった漆喰の魅力に惹かれ頑張っている途中です。よろしくお願いします。

 

作業の説明

高木先生

限られた時間の中で用意した見本のように、なまこ壁を作っていきます。そのために、どうやったらできるだろうかと想像してみてください。使う材料は、テーブルの上にある物と、水です。グループで話し合ってみてください。

 

山川講師(左官)

「高木さん、何にも分からない人にそんなことを投げかけても。笑」

 

高木先生

「まず、考えてみないとだめなんです。笑」

参加者

「最初に下地の黒を塗ってから、ナマコの模様を作っていって、4人グループだから一人一区画仕上げる。」

 

「先になまこの形を作ってから、周りを塗っていけばいいんじゃないかと思います。」

 

「下書きが消えちゃうね。どうやったらいいんじゃろ。」

 

高木先生

皆さん言われたように、最初に下地を塗るとなまこ壁の形を作るための下書きが消えてしまいますよね。どの時点で、なまこ模様を作るのかが難しいですよね。そして、実際の現場は、縦になっている壁に塗っていきます。より難しいそうですね。

 

そこで実際はどうやるのかプロに種明かしをしていただきましょう。

 

藤原講師(左官)

こういった型を使って、なまこの形の土台をあらかじめ作っておいて作業をしています。

なまこの形の土台は、ラス板に下書きを書き、防水性のあるシートを板にまず貼ります。そして、モルタルを粗塗り。そして下地に中塗りをし、盛り上げていき、仕上げに漆喰を上塗ります。

大体、粗塗りした後に4、5日乾かしてから、中塗りをしていき、2日後に仕上げをしていきます。

 

高木先生

「ということは、延べ2週間はかかるということですね。笑」

 

今日実際にできるのは、中塗りまでの漆喰を塗る作業ということになります。それでは作業していきましょう。

 

漆喰を塗る

山川講師(左官)

それでは、漆喰を練っていきます。まず中塗り用の漆喰。石灰、ワラスサ、砂石、水を混ぜます。石灰は日本に無くてはならない材料。二酸化炭素に触れて、水と混ぜると固まっていきます。そして砂を混ぜて練っていきます。砂の割合が多くなると粘りが出て、割れにくくなります。

 

「左官の”かん”は”勘”ですから。笑」

 

割合は、天気や湿度、温度で粘りを見て調整していますね。

 

今日使っている石灰には、スサが混ぜられていて、水を加えると漆喰が練れるようになっています。石灰のつなぎとして麻が主流になってきていますが、私が持ってきたのは土佐漆喰なのでスサを使います。土佐漆喰以外は、糊を混ぜて漆喰を作っていきます。

 

ちなみに持ってきたこのワカメみたいなものが、糊の役割をする海藻、ウンナンソウです。これは天然の糊で高級。高級な壁の仕上げや耐久性を持たせたい時には混ぜて使います。注文して5年後にでき上がってくるようなものもあります。

漆喰の良いところは、二酸化炭素を吸ってくれること、殺菌効果がある、冬は暖かく夏は涼しい、そして何よりも美しい見た目ですね。

 

良さを引き出すには、綺麗に塗れるかですね。50年塗ってきたけど、まだ難しいね。

コテで漆喰を流していくように塗っていきます。こんな感じで。最初は隅から材料で埋めるように塗っていって、徐々に盛っていきます。

 

コテ先で調整しながらまずは隅まで埋めていってください。

その後は、用意していた、なまこの土台を設置して、そこも中塗りをしていってください。

 

高木先生

なまこの土台に漆喰を塗って盛り上げる作業ですが、網を塗る前に中に入れて塗っていきます。この網はグラスファイバーで形を安定させたり、割れにくくする役割があります。

 

山川講師(左官)

一気に塗っていくんではなくて、少しづつ盛っていく方が綺麗にできると思います。

 

参加者

「難しい。均等に塗れんなぁ。」

 

…沈黙。真剣に作業。

 

作業終わり

高木先生

皆さん何も分からなかった状態から、目標のゴールまでなんとか完成しましたね。実際に塗ってみてどうでしたか?

 

参加者

「漆喰のなまこ壁は身近に見ていたけど、こんな風にして作られているんだと分かって良かったです。」

 

「改めて漆喰の壁の良さを実感しました。」

 

山川講師(左官)

職人にとってはコテでいかに綺麗に仕上げるかが重要かもしれないけど、仕上げは、クリアファイルのようなシートで馴染ませると、キメの細かい仕上がりになったりします。多くの人に漆喰の魅力に関心を持ってもらうために、誰でもなまこ壁が塗れるような治具のようなものがあればいいんじゃないかって思っています。なまこの高さや形を勘や経験を積まないとできないという感じではなくて。

 

少しでも多くの人に関心を持ってもらえることが、伝統的な技術の継承に繋がるんではないかと考えています。

 

参加者

ベテランの職人さんが、柔軟な考えで漆喰の良さを伝えようとされているんですね。

 

「早速、これから帰って、いただいた材料と板を使っって自分の家の壁の修理やりますよ。笑」

 

「あらかじめ土台を作ったりしておけば、今回の参加者のような技術でも修繕はできるかもしれないなと思いました。」

 

高木先生

皆さん自分で想像したよりも、難しかったけど意外とできたと感じられた方が多いのではないでしょうか。このワークショップをきっかけに是非、地元の職人さんの手をお借りしながら、まちなみの、あるいはご自身の家の壁で挑戦してみてください。



上下天領ひな祭り開催のお知らせ

開催地:白壁の町並み(上下町商店街) 
    〒729-3431 広島県府中市上下町上下

開催日時:平成31年2月16日(土)~3月17日(日)
     (でこ市) 3月2日(土)~3日(日)
     (こだわり市) 3月16日(土)~17日(日)

お問合せ:天領上下ひなまつり実行委員会事務局(上下歴史文化資料館内)
電話:0847-62-3999