お知らせ INFORMATION

2019.10.10

2019『手に職、暮らしミーティング クラフト編』家具は“使う”だけじゃなく、“作る”ことも楽しい。 ものづくりの魅力を多くの人に伝えていきたい。

府中での手に職のある暮らしについて、神田(東京)でお話会を開催

東京に暮らす、ものづくりやツーリズムに関心のある人々と一緒に、手に職のある暮らしや府中市のものづくりの未来について考えるイベント『手に職、暮らしミーティング』。9月27日(金)、東京・神田にある『風土はfoodから』で開催されました。 府中市に興味を持ってもらい、足を運び、ゆくゆくは府中市へ移住してもらうことを目的に、地元NPO法人「府中ノアンテナ」が企画したこのイベントは全3回。 第1回目となる今回は『クラフト編』として、2名のゲストが登壇しました。 府中市の木工職人である服巻年彦さん(伝統工芸株式会社)は「作り手だけが知る楽しみ」を、また兵庫県を拠点に地場産業のプロデュースを手掛ける堀内康広さん(トランクデザイン株式会社)は、「ローカルを盛り上げるための秘訣」を教えてくれました。 ※モデレーター:小谷直正(府中ノアンテナ)

家具は“使う”だけじゃなく、“作る”ことも楽しい。 ものづくりの魅力を多くの人に伝えていきたい。

スピーカー:伝統工芸株式会社 代表取締役 服巻年彦さん

額縁から家具へ、料理人から木工職人へ

自然豊かな府中市上下町で額縁や屏風、茶道具などの製造会社として創業した『伝統工芸』。5年前からオリジナル家具『LISCIO(リッショ)』の製造をスタートし、ノックダウン式のミニマルな家具を生み出しています。

元々イタリアンのコックとして、都市部で働いていた服巻さん。昔から料理を含め“ものづくり”が好きだったそうです。結婚と同時に「包丁がノミに、キャベツが木になった感覚」で『伝統工芸』に入社し、木工職人の道を歩み始めました。

従業員は現在15名。稲刈りシーズンの今は、「各家庭で田んぼ仕事があるため、毎週だれかが会社を休んでいる状態」と服巻さんは笑います。

彼は「仕事と暮らし、この2つが平等に存在しているのが田舎の魅力」と語ります。

家具づくりの醍醐味は 木の特性を見極め、生かすこと

『伝統工芸』が家具作りにおいて大切にしているのは、「木を見る」こと。
木は湿度や温度によって変質したり反ったりするため、服巻さんたち職人は木材の状態をきびしく見極め、ミリ単位で削っていきます。
また板の「柾目」と「板目」をチェックし、製品ごとに木目の流れをそろえることにもこだわります。

神経を使う大変そうな仕事ですが、イキイキと話す服巻さんを見ていると少しイメージが変わります。
一つひとつ異なる木材に向き合い、それぞれの性質を生かしながら、美しく使い勝手のよい製品を作ること。それが木工の醍醐味なのだと伝わってきます。

商品やワークショップで ものづくりの楽しさを伝える

『伝統工芸』ではオリジナル家具のほか、『ほぼ日』とコラボした商品の製造も手掛けています。それが、本格的なスピーカーを自分で組み立てて作れる『きほんのスピーカーキット』。

「買った人が自宅で、自力で組み立てられる」…この塩梅に苦労しながら試行錯誤のすえ完成させたキットは、ものづくりの楽しさをダイレクトに感じられる商品としてヒットしました。伝統工芸

「家具は使うだけでなく、“作ること”もすごく楽しいんです。その魅力をたくさんの人に伝えたい」と服巻さん。そんな想いから自社で年に一度開催しているのが、お箸づくりなどのワークショップです。

小学生から大人まで参加してもらい、「木目を見る」という作業や手触りがどんどん変化していく研磨作業、服巻さんが「木の表情が変わる、いちばん楽しい工程」と話すオイル塗装など、木工の面白さが詰まった手しごとを体験してもらいます。

ものづくりの楽しさを伝える取り組みのほかにも、子育て世代の女性の雇用を増やしていきたいと、女性が使いやすいお手洗いを作るなど工場の環境も整えているそうです(今も3名のママスタッフが活躍中!)。

11月3日『木になる生活展』を開催

そんな『伝統工芸』では、11/3(日)にクラフトフェスティバル『木になる生活展』を開催。府中市とおとなりの福山市で行われる工場見学イベント『瀬戸内ファクトリービュー』との同時開催です。

紅葉が美しい府中市の山間部で、ワークショップをはじめ家具・クラフト雑貨・地元産野菜の販売、木の車を使ったレースなどが楽しめます。参加すれば、自然豊かでスローな時間が流れる府中市の魅力、そして木工やものづくりの魅力を実感できるはず。

(詳細はhttps://www.dentou-kougei.co.jp/kininaru)

“関係人口”を増やしていくことで 産地の可能性が広がっていく。

スピーカー:トランクデザイン株式会社 代表 堀内康広さん

 

トランクデザイン 堀内さん

地場産業をデザインの力で広めていく

自身の地元である神戸市・垂水にデザイン事務所兼ショップ『トランクデザイン』を構える堀内さん。兵庫県の多彩な地場産業や伝統工芸をプロデュース・販売しています。

 

「地元のものづくりをまず地元の人に知ってもらって、それから日本全国や世界に知ってもらうための取り組みをしています」と話す彼の仕事は、職人さんの悩みを聞き、デザインの力で解決していくこと。

 

『トランクデザイン』は、兵庫県産クラフトの自社ブランドも立ち上げています。

モノは作れるけれど、デザインしたり売ったりするのは難しい…と悩む企業からモノ(技術)を買い取り、『トランクデザイン』で完成品まで作り込んだうえで販売するのです。

「職人さんにお金を払って、僕らがデザインして売って、買ってくれたお客さまからのお金でデザイン費をまかなっています」と堀内さん。その理由は「職人さんとの関係を一生続けるため」。

自分たちが販売することで在庫連絡など密なやりとりが生まれ、関係性づくりに繋がっていくといいます。

府中市を訪れて感じた課題と魅力

『府中ノアンテナ』からの相談をきっかけに府中市を訪れ、市内のさまざまなメーカーとも関係性を築いている堀内さん。府中市について率直な印象を語ってくれました。

 

「府中に訪れたとき、今までと違う感覚があったんです。それは“何が問題なのかわかってない”という感覚(笑)。『府中ノアンテナ』も府中のことを発信しているけど、それが本当にメーカーのためになっているのか?と。『アンテナ』として、そしてメーカーにとってのベストは何なのかという話し合いをずっとしています」。

 

また、府中市のメーカーをまわった際には「自分たちでブランドを作るぞ!という気概があまり見られなくて。そもそもOEM(他社ブランドの製品を製造すること)の業者さんが多いからだと思うんですけど」とも感じたそう。

一見ネガティブに思える現状ですが、堀内さんは新しい視点から府中市の魅力・利点を見つけてくれました。

それは、ものづくり企業が近距離で密集している「コンパクトさ」と、一つの会社やエリアで「ものづくりが完結できる」こと。

「例えば、兵庫県ってすごく広いんですよ。産地同士が離れているからツアーにもなりにくくて。でも府中は車で15分圏内に家具メーカーがひしめきあっていますよね。設備がそろっていて、何でもできる会社も多いし。こんなにものづくり企業が密集した産地は珍しい! OEMの産地なのであれば、OEMに特化してPRすればいいじゃんって」。

技術を実際に見ることで生まれる関係性

そんな意見から「デザイナー向けのマッチングイベントを行っては?」というアイディアが生まれ、府中市および福山市のものづくり企業が参加するオープンファクトリーイベント『瀬戸内ファクトリービュー』の開催が決まりました。

工場見学を通して現場の仕事や職人さんの姿、想いを知ることは、デザイナーにとって依頼先が増えることにつながるといいます。

「いくら話をしたとしても、技術を直接見てみなければ分からない。技術を知ることで、どんなものに応用できるかが見えてくるんです」と堀内さん。

実際に、『伝統工芸』の細い材木に強度をもたせる技術や蝶番でコンパクトに折りたためる技術に出会った彼は、展示会のディスプレイ棚の製造を依頼。

そのほか、桐箱を製造する地元メーカーとともに、桐箱のお弁当箱を作るプロジェクトを進めています。価格やサイズなど全てリサーチして数値化し、衛生面についてや海外輸出できる塗料なども調べ、商品化に向けて動いています。

また縫製で有名な福山市に訪れたことも、堀内さんの仕事依頼につながったそう。

こちらも車で15分圏内にメーカーが密集しており、デザインからパターン、縫製、加工まで一つのエリアで全てまかなえるのが強み。縫製業者を探していた彼の友人にも福山市を紹介したといいます。

「みんな依頼できるメーカーさんを探してるんですよ。個人でブランドを立ち上げたい人も多いし、小さく始めている人も増えている。つながりを持つことは、メーカーとデザイナー双方にとって良いことなんです」。

『伝統工芸』の服巻さんも「職人側からしても、デザイナーとつながれるのはうれしいこと。外からいただく声は会社にとって“宝物”ですから」と頷きます。

「府中や福山に関わる人を増やしていくことが大切。僕はこれを『関係人口』と呼んでいます」と堀内さん。小さなきっかけを通して『関係人口』が増えれば増えるほど、府中市の可能性が広がっていくことを実例とともに教えてくれました。

二人のお話を聞いて…

二人のお話を聞き、興味をもったことや共感したことについて、ゲストと来場者の皆さんとでシェアしました。

そのようすをご紹介します。

来場者男性①:地域だけで盛り上がるより、もっと大きくつながることが重要だと感じました

堀内:本当にその通りで。まちおこしは一過性のイベントになりがちだけれど、そうではなく、経済を継続してつくっていくことが大事なんですよね。

商品をイチから自社で作るのはめちゃくちゃ大変でリスキーだから、デザイナーの力を借りたらいいと思うんです。ひとつの地域に100人のデザイナーが関わっていくような仕組みづくりが大切なんじゃないでしょうか。

来場者男性②:学校の地理の授業などで教わる特産物は、全国でもメジャーなものだけ。地場のマニアックな産業を伝え、知っていくにはどうすればいいでしょうか。

堀内:だからこそ『関係人口』が必要なんです。産地を訪れることで気付く魅力というのはたくさんあるし、魅力に気付いた人を増やして、伝言ゲーム的に広がっていくと面白いなと感じます。一人ひとりが伝えることが大切。

小谷:広島県内では、府中は“ものづくりアイデンティティ”が高いまちとして知られています。でも、全国的な認知度はまだまだ。実際に来てもらえれば食、自然、工業などの魅力を知ってもらえるだけでなく、端材でさえ宝物に見えて、新たな発見につながると思います。

食といえば、約4万人の人口に対して40軒ほどの府中焼きの店があるんです。これはコンビニと同じレベルの分布(笑)。店によって味や食感が違うので、食べ比べることでローカルフードを楽しんでもらえたら。

服巻:食といえば、従業員と一緒に畑をやっているんです。会社の敷地内で。食を応援することでみんなと一つになれたらいいなと思いますね。

小谷:『伝統工芸』さんでは家具だけでなく野菜も作って、ものづくりの楽しさを伝えているんですね。そういう豊かな働き方も、府中にはあります。

おわりに

「府中の人たちはちょっとしたことをお願いしやすい。そういう関係性ができているんです」と小谷さんが話せば、堀内さんも「府中の人はみんな仲良しなのがいいよね。『アンテナ』メンバーもアイディアを実行するスピードが速い」と共感。

「『アンテナ』は何かやりたいことがあれば来週に来てもらっても対応できますし、府中市役所の職員さんもフットワークの軽い方ばかり。市が相談ごとに対してすぐ答えを返してくれるから、僕たちもすぐに動けるんです」と、府中で何かやってみたい、暮らしてみたいという人をしっかりサポートできることをアピールしました。

このイベントをプロデュースしてくれたミテモ株式会社の社長・澤田哲也さんは「必ずしも全国に広く知ってもらう必要はない」と話します。

「府中を好きそうな人に教える、というやりとりがすごく大事なんです。好きだと思うことを本人(府中の人々)に伝えて、好きそうな人に府中を紹介することで、関係人口が築かれていく」という彼の言葉通り、府中焼きや府中味噌を味わいながらの懇親会では、伝え手と聞き手である来場者、また来場者同士が府中の温度感や空気感をゆるやかに共有し、つながりが生まれていく雰囲気を感じました。

11月2日には、「実践編」として第三回目のミーティングをここ府中市で行います。

同時開催の「瀬戸内ファクトリービュー」も楽しみながら、府中の魅力や可能性にたくさん触れていただければうれしいです。

開催概要

2019/09/27(金)
19:00-21:30
風土はfoodから
(東京都千代田区神田錦町3-15 錦町ブンカイサン 1-2F)
主  催 府中市
企画運営 NPO法人府中ノアンテナ