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2019.10.20

2019『手に職、暮らしミーティング 発酵編』美味しい味噌料理を食べて考えた、地方と都市が交わるところ。

まちづくりと味噌づくり。一見独立している2つの分野が、見かたを変えると近づいてきた。異なる分野で活躍する二人から生まれる、地方と都市を結ぶ作戦とは。「かき回さないとムラができる」そんな言葉と共に記事にします。

改めまして、こんにちは。今回記事を書く「ナカニシ」と申します。広島県府中市出身のWebライターである僕から見た今回のイベントを、皆さんに伝えます。どうぞ最後までお付き合いください。

都会と地方が混ざりあった夜。

今回のイベント会場は東京都千代田区神田錦町。土地の多様性や文化を食から見つめる食べられるミュージアム「風土はFoodから」で開催されました。

テーマは「発酵」。

イベント名は「手に職、暮らしミーティング」。都会と地方がものづくりで繋がる本イベント。広島県府中市の産業を現場で支える手に職を持った人たちから、府中のものづくり・職人という仕事についてお話を伺う目的です。第一回記事はコチラ。

 

第二回目の今回は二人のスピーカーが登壇しました。
・金光味噌株式会社 代表取締役 金光康一さん:
「発酵をハックする」をテーマに味噌づくりを行う創業147年の金光味噌代表。

・株式会社アスノオト代表取締役 信岡良亮さん:

都市と農村の新たな関係を築く活動を行う「株式会社アスノオト」代表の信岡さん。島根県隠岐郡海士町で始まった地域留学型の未来大学システム「さとのば大学」の開設者でもあります。

味噌づくりとまちづくり。それぞれ分野は違えども第一線で活躍する二人。開場前に出会ってから、味噌を切り口に様々な議論が始まりました。途中で「アザラシ」って単語が聞こえたような…。会話が深まるばかりです。

イベントの運営も、都会と地方の共同作業

少し話を戻して今回のイベント運営について。
主催はNPO法人府中ノアンテナと府中市職員。共同運営として、人材育成・教育のプロフェッショナルとデザインとITに通じたクリエイターが集まる学びのクリエイターチーム「ミテモ株式会社」のスタッフが参加しました。

(府中ノアンテナ・府中市職員と金光さん、信岡さん)

(受付を担当してくださるミテモのみなさん)

また、イベント記録としてグラフィックレコーダーの小林さん。

グラフィックレコーダーという仕事を初めて拝見したのですが、少しずつイベント内容が一枚の紙にまとまっていく様は感動ものでした。完成形はのちほど。

さいごに、今回テーマとして大きな関わりを持つ「食」を担当する「旅する料理人」西野さん。

以上のメンバーで粛々と、準備が進んでいきました。

19時。混ざり始める。

イベント開始間際。
少しずつ受付に参加者が集まります。

同時に、料理も準備が始まります。

そして19時。
イベントがスタートしました。

司会進行はNPO府中ノアンテナの小谷さん。
まず初めに、府中市の紹介が府中市職員の宇野さんからありました。
「今日は目でも、耳でも、胃袋でも。府中市に興味を持ってもらいたい」
この言葉がとても印象的でした。トークと、美味しい食事がセットになった贅沢な時間。良いですね。

司会進行の小谷さんにより、参加者の緊張をほぐす時間になりました。
隣の人と、自己紹介タイム。

開場の空気が少し和らぎます。そして改めて府中市の紹介へ。「盆地」「冬寒く、夏暑い。」そんな話も含めつつ、自然が近くにある良さも紹介します。

自信を持って紹介するのは「府中味噌・府中焼き・府中家具」

今回は食に関するイベントということで、府中味噌が金光味噌から、府中焼きが府中市アンテナショップ「NEKI」から届いていました。あとで登場しますよ。美味しかった。最後にNPO府中ノアンテナについて紹介。府中市の事業について、外にどんどん魅力が伝わってほしいという名前の由来についてと、「ありがとう積み木」というおもちゃの企画を府中市の木工所と共に作った経緯も併せて紹介しました。

ここからゲスト1人ずつのトークセッションに移ります。

「発酵をハックする」味噌づくりとは。

まず金光味噌株式会社代表取締役の金光さんから。

最初に出てきたスライドがこれ。

一文だけが英語で書いてありました。

「All we can do is waiting」:私たちは待つことしかできない。

これが、味噌造りの原点。

「味噌は菌が作ってくれる。僕たちはその手伝いをしているだけ。」印象的な言葉でした。

出荷の7割が海外で北米などに大きな市場を持っているそうで、食品安全基準について特に勉強して市場を開拓。特に面白かったのが「菌」について。発酵食品であるため「菌」は何より大事なのに、食品衛生会社は安全性を気にして菌の存在を否定する。金光さんとしては、工場内から菌がなくなると困る。そこで攻防があるそうです。147年使い続けた樽で作り続ける味噌は、一筋縄ではいかないようです。

米麹と食塩と大豆の関係。長く続く味噌造りの原点を、熱く紹介してもらいました。もう一つ話の中で興味深かったのが、地方に多く地元の蔵が残っている理由について。味噌に限らず醤油・お酒を造る蔵にはどこでも「独自の菌」が住んでいて「独自の味」が出来上がる。だから流通する一般的な食材では代替が効かず、最後は地元の味に戻ってくる。そんな話をされていました。こういうのが、地元愛に繋がるのかな。母の味、みたいな。

その他、月に何組も来られる外国人の方々。

 

写真はケニアからの来客。ファストフード等による食文化の崩れを防ぐ目的が彼らにはあるそうです。ヨーロッパでの販路についての紹介もありました。歯磨き粉を入れるようなペースト容器に入れて販売するため、間違えて買う人もいるとか。海外の売り上げについてスピーカーの信岡さんから思い切った質問がありました。

「実際、売上ってどうなんですか?」

それに答えた金光さん。おおよその額に会場はどよめきました。

味噌の売り上げが伸びた一つのタイミングに東日本大震災があったそうです。震災は「自分たちは何を食べるのか」を考えるきっかけにもなったみたいですね。日本だけでなく、世界からも今はこの「自分たちは何を食べるか」という問いが広がっているそう。

金光さんはITやロボティクスを用いた取り組みを会社に大きく取り入れました。それは職人気質な先人からは「見て覚えろ」と言われたことを、どうにか変えたいと思ったからでした。例えば、現在金光味噌のTwitterでは米麹の温度を1時間ごとツイート。それをデータ化することで作業効率化に役立っているそうです。また重量物を持ち上げる際に、腰への負担を減らす為にパナソニックと調整したパワードスーツを着ての作業を動画で紹介されました。

最後の話になったのは、一人の若手社員さんの言葉。

「金光味噌は、田舎にあるのにハイテクで、やっていることは古臭く見えるけど温かい」という彼の一言で、金光さんは「モノがあふれている世の中でコトに飢えた人を受け入れる企業になれた」と感じたそうです。

 

昔ながらの製法だからこそ、海外で受け入れられた。地方から「ローカルな味わい」を世界に広げる味噌づくりの中に、テクノロジーをプラスしていく。そんなものづくりの一端を知ることができました。

都市と農村の新たな関係を築くには。

続いて、株式会社アスノオト代表取締役の信岡さん。

良い笑顔。金光さんと終始楽しそうな雰囲気に優しい人柄を感じました。

信岡さんが事業を考えるきっかけは、東京で過労のため体調を崩したことだったそうです。グローバル経済の行き過ぎと環境配慮の必要性。IT企業の資本主義的な考えに疑問を感じて退職したとき、「島まるごと持続可能」というプロジェクトが島根県の離島「沖ノ島」にある海士町で始まっていた。それが移住のきっかけになりました。海士町では当時、県立高校なのに行政と国が直接掛け合って「島留学」という新しいカリキュラムを設定し結果クラス数が倍増。ここ10年間で移住者が増え続け、出生数の増加や人口増加から、保育所不足やまさかの住居不足問題にまで発展。なかなか驚異的な動きですね。

そのなかで信岡さんは2007年から地域おこし企業を立ち上げて活動。「島に大学を作りたい」という思いで活動するも東日本大震災を機に「島だけが幸せでも意味がない」と気付いたそうです。「都会も田舎もつながっているから、一緒に日本を良くしていきたい」。そして田舎と都心を繋ぐために2014年に東京へ活動拠点を変更。「都市と田舎は繋がっているはずなのに別々。オフェンスとディフェンス、父親と母親みたいに、パートナー関係があるはずなのに独立して見える」これに気づいた時、都市部でもいろいろなキャリアを選択できるモデルが作りたくなったそうです。キーワードは「旅する大学」。3か月間の地域留学する「さとのば大学」を開催し、クラウドファンディングで1000万円以上を集めました。

信岡さん:田舎にいると、「発酵」みたいなシステムが大切に感じる。企業の中期計画・長期計画が~5年単位に対して、田舎は~20年先の未来を考える。中学生が大人になって帰ってくると、島の中の人もIターンで来ている人も分け隔てなく、共通の「先輩」と感じられる。恩送りの文化が根強いからこそ、長いスパンで考える未来を現在の経済システムの外で考えたい。

なるほど、少し二人の共通点が見えてきました。ここから、二人のトークセッションが始まります。

 

地方と都市が「発酵」するまちづくりとは(トークセッション)

信岡さん:海の街と山の街では、世界観も出来ることもまったく違うと思います。菌によって味噌の味が違うように、土地によってできること、作れる物語が違う。それを活かしていきたい。金光さんとも話したけど、スーパーで企画商品を作ると似通ってくる。街づくりも同じで、郊外に出ると大手チェーン店が立ち並ぶどこにでもある、似たような風景になってしまう。この対極にある「個性を伸ばす」ことが、僕は「発酵」ではないかと思います。

 

金光さん:たしかに、そうですね。例えば僕たちは北米に商品を出すのですが、アメリカの郊外は日本と似通っています。同じような景色で、土地を特定できなくなる。ただ、日本は一部にちゃんとローカルな部分があって、そのおかげで海外からも観光客が絶えないのではないでしょうか。味も発酵も、まちの作り方も、それぞれの土地で全然違う。

 

信岡さん:なるほど、そうかもしれない。

 

金光さん:そういえば、信岡さんが言っていた発酵と人づくりの共通点を僕も感じていて、街づくりがうまくいっていると、醸造屋さんが長く続くんです。

 

信岡さん:へー、それはどうしてですか。

 

金光さん:なぜかというと、その土地で生まれた子たちが食品を食べる。大きくなるとその工場で働く。いわば、持続可能な循環ができていたんです。ところが、情報量が増えてモノが溢れ返ると、信岡さんが言っているように、結果的にどこも似たような状況になってしまう。するとこの循環が止まってしまいます。

 

信岡さん:そうですね。僕が発酵に出会ったのは、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんがきっかけです。最近「まちを醸す」という言葉を聴いて、長い年月をかけてまちを作るから独特の味が出る、と聴きました。面白いですよね。その時に、僕がふと思ったのは「発酵と腐敗の違いって何?」でした。

 

金光さん:なるほど、面白い。僕が思うに、腐敗は菌たちにとって意味がなくなって土に帰って行く状態。発酵は、菌たちや人間に意味がある状態。あくまで客観的にみて、人間にメリットがある状況が発酵かなと思います。

 

信岡さん:害虫と益虫みたいな感じですか?

 

金光さん:そうそう!良いか悪いかは、人の目から客観的に見た結果なのかと思います。あくまで人の視点。腐敗する社会は、これ以上役に立たなくなった状況。持続可能なところには、新しいモノがどんどん入ってくる。それがまた、発酵を促すと思います。

 

信岡さん:そうですね。そういえば、味噌って毎日混ぜないといけないんですか?

 

金光さん:混ぜた方がいいと思います。味噌を発酵させる酵母菌には酸素が必要なので、混ぜないと味にムラができてしまいます。平均的な味を出すために、半月に一回は混ぜてほしいですね。

信岡さん:僕の仮説として、まちづくりも同じなのかなと。混ぜないと、腐っていく気がしています。

 

金光さん:わかります。発酵食品で言うと甘酒がそうですね。混ぜないと、腐ってしまう。

 

信岡さん:そうなんだ。僕のイメージでは、閉じていく地域はどんどん衰退している気がします。海士町は「自立・挑戦・交流」の3つを目標に掲げていて、自立するためには挑戦が必要で、挑戦するためには交流が必要だと感じています。海士町は、この交流が面白い。

 

金光さん:どんな形になっているんですか?

 

信岡さん:別の土地で話をすると、ついつい地元の話になることが多いと思うんです。でも海士町では「外から来た人の話」に興味をもつ人が多い。外の環境に目を向け始めると、外の人に興味がわく。そして一度外の人と交流が起きると、次は「誰と繋がるか」の連想ゲームが始まる。秩序的な場所と、カオス的な場所のバランスがとても大切。発酵はバランス感覚がとても優れている状態なんだと思います。

 

金光さん:なるほど、よくわかります。その話でいくと、ヨーロッパはヨーグルトやチーズと言った乳製品を作る時に「狙った菌」のみを使います。ところが東南アジアは中国の紹興酒はじめ、いろんな菌を自然に使う。高温多湿の環境の中で菌をどう扱うかが必要だったわけです。

 

信岡さん:なるほど。そんな違いがあるわけですね。

 

金光さん::そういえば、東南アジアの食品には陰と陽の関係もありますね。陰は身体を冷やす食材。例えばにんにくや玉ねぎ。これは欧米の文化。反対に陽となるのは味噌やショウガ。今の話から、この陽の食材を使った文化圏で人が増えていっているのかなと思ったりしました。

 

信岡さん:陰陽や五行の話は面白いですね。西洋は物理法則。原因と結果から一つの法則を見つける。五行は複雑さの中で結果が変わってくる。海士町でも同じことが言えて、「何がコツですか」と聞かれても、もう分からない。いろんな人たちが好き勝手に入り混じる結果、2300人の島でプロジェクト数が50くらいある。府中市の人口って何人ですか?

 

金光さん:4万人くらいです。

 

信岡さん:なら、単純に20倍で1000プロジェクト、移住者は500人の20倍で1万人いけますね。

 

金光さん:なるほど、そういうことですね。

 

信岡さん:この数字は、設計しても作れないと思います。いろんな人がいろんな関係性で、相互的に起こる。金光さんが言っていたように、僕らは場を作っているだけ。もし、この中に府中市に行く方がいれば、ぜひ「府中市で自分が小さな一歩を踏み出したら、何が起こるか」を連想ゲーム的に想像してほしい。

 

金光さん:良いですね。あと一つ思い出したのですが、僕らの蔵には樽が48本あって。その樽は厳密に言えば全部味が違うんです。

 

信岡さん:そうなんですね!

 

金光さん:そうなんです。なぜ違うかと言うと、結局住んでいる菌が微妙に違う。環境が違うから、コントロールはできないんです。これはさっきも話に出たカオス状態のパワーだと思います。

 

信岡さん:その話でいくと、他の味噌を金光味噌に置いておくと金光味噌の味になりますか?

 

金光さん:おそらく金光味噌の味に近づくと思いますよ。

とても刺激的な話が続きましたが、時間の都合でここまでとなりました。

 

終盤に差し掛かり、グラフィックレコーディングも埋まっていっています。

司会進行の小谷さんからは「都市と地方の関係が、異文化を受け入れることで活性化していくことは、「発酵」に近いと感じました。そんな場を作りたい。」という話で繋がりました。「府中市のメーカーはノリ良く受け入れ態勢があります。ぜひ、この後美味しいご飯を食べながら一緒に発酵していきましょう」

味噌づくりについて、参加者からの質疑応答に答えたのち、食事の時間となりました。

 

食事の前にイベントの告知。観光と職人・企業を繋ぐオープンファクトリーイベント「瀬戸内ファクトリービュー」。

「仕掛ける」

小谷さん、ワクワクした顔をしていました。

食を通して、混ざり合う夜。

ここからは食事の時間です。会場1階では、素敵な料理が沢山準備されていました。

金光味噌さんの美味しい味噌を活かしたシンプルで深い味わいの料理が並びます。

新鮮な野菜に数種類の味噌につけて食べる楽しみも。

そして、僕らにはなじみ深い府中焼き。

楽しい美味しい時間が続きます。

美味しい食事と、初めましての方々。自然と会話が進み、名刺交換と活動の共有。

この場でも少しずつ、人と人とが混ざり合っていくのを感じました。

時間はあっという間に過ぎていきました。みなさん、ありがとうございました。

混ざり合あえば豊かになる。

今回のイベント、一見すると関係ない味噌づくりとまちづくりが、「発酵」というキーワードで結びつきました。味噌づくりは、かき混ぜなければムラができてしまう。まちづくりも、異文化を受け入れなければ衰退し、腐敗してしまう。大切なのは「混ざる」こと。そして、2人が共通して伝えていたのは「場づくり」の重要さでした。新しい人と人が出会う空間を作れば、あとは自然に物事が動き始める。それは、食事会の中でも垣間見えた気がします。11月3日に開催予定の広島県府中市で行う第三回目の「手に職 暮らしミーティング」に、数名から参加希望もいただきました。

この夜が、新しい場づくりのきっかけになれたら良いと強く感じました。

 

イベントが終わり帰り際。話は尽きずお店の前から中々動けません。

今夜の出会いが、次の出会いを作る。良い場づくりになったと感じました。広島県府中市と東京。僕はどちらも好きになれそうです。

良い夜だった。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

それでは、また。

開催概要

2019/10/9(水)
19:00-21:30
風土はfoodから
(東京都千代田区神田錦町3-15 錦町ブンカイサン 1-2F)
主  催 府中市
企画運営 NPO法人府中ノアンテナ